「野口のタネ」の野口勲さん
2019年のこと。
固定種野菜の種を売っているタネ屋さん、「野口のタネ」の代表、野口勲さんの講演会に行きました。そこで種のお話を、たくさん聞いてきたのです。
野口勲さんは、『タネが危ない』の著者で、毎年いろいろな場所で講演会をされているようです。著書『タネが危ない』の内容を、ご自身の口から聞ける、またとない機会でした。
野口さんは、実家のタネ屋を継ぐ前は、手塚治虫さんの漫画の編集者をしていたそうです。職業柄なのか、それは関係ないのか、とにかく興味深いお話が絶え間なく続きます。今までにインプットしてきた情報量の多さがうかがえる、とても聞きごたえのある講演会でした。
そのなかでも、野口さんが本当に伝えたいのが、「雄性不稔(ゆうせいふねん)」の問題なのだそうです。
優性不稔とは「男性不妊」のこと。
2019年の時点で、世界や日本で多く使われている「F1」という種の大半が、優性不稔なのだそうです。
F1種と固定種のちがい
F1種は、人間の都合で作り出された、大量出荷に適した野菜
F1種は、「Aという個体」と「Bという個体」を、かけ合わせて作られた、「一代交配種」「一代雑種」の略。
たとえば「病気に強いAという個体」と、「大きな実ができるBという個体」。
まったく異なる性質を持つ、2つをかけ合わせ、「病気に強く、大きく育つ」個体を作り出す。
F1の種は、みんな揃って形がよく、強く、大きく、大収穫できる。現在では主流となっています。
固定種は多様性がある
昔の農家は、先祖から受け継がれた種を「自家採取」して、同じ品種の野菜を作り続けてきました。これが「固定種」「在来種」。
その土地の環境に適した個体に、長い年月をかけて進化しました。
自然の力によって進化し、人間が種取りをして大切につないできました。
戦後の大量生産で、1F種が選ばれることに
野菜というものは本来、形や大きさが不揃いなので、昔は「量り売り」をしていました。
しかし、戦後から今までの間、農家は大量出荷が主な販路となりました。
大量出荷するには、大量生産しないといけません。
しかも大量出荷をする際に行われる検査の段階で、形の良くないものや、規定より小さいものは、はじかれてしまいます。固定種野菜では商売が成り立たない。だからF1種を選ばざるを得ない状況になりました。
ならいいじゃん、F1で。と思ってしまうのだけど・・・。
F1種子のデメリット
F1は、一代限りのものです。
固定種のように、種取りしてそれを蒔いて、ふたたび一代目と同じ野菜を作ることができません。その都度、種を購入しないといけません。
メンデルの法則
メンデルが、形の異なるエンドウの種子を交配させて発見した「遺伝の法則」。
そのひとつに「優性の法則」があります。
「優性の法則」
形のまるい種子と、しわのある種子を交配させたところ、
一代目の種子はすべて、形のまるい種子だった。しわのある種子は出てこなかった。
一代目は、強い性質、優性の遺伝を受け継ぐ。
しかし二代目以降は、まるい種子だけでなく、しわのある種も出はじめた。
二代目からは、優性、劣性どちらの性質も出はじめる。
F1は、優性の遺伝を受け継ぐ一代交配種。
二代目は劣性の遺伝も出てくるため、商品として成立するのは一代目に限るのです。
雄性不稔の種
一代交配種を作るために、異なる性質をもつ個体同士を交配させます。
欲しいのは「一代目」のみ。二代目は、いりません。
だから、おなじ種類の雄しべは邪魔。人間の手で雄しべと雌しべを操作することになります。
最初は、F1の種子作りは、人間の手作業で行われていました。けれど現代では、人間の手を省いてできるように、雄性不稔の遺伝をもつ個体を使うようになってきました。
へんてこな雄花
野口さんのお話によると、山から食べ物を採りに、種取り専用の野菜ハウスに来た猿は、たくさんある「へんてこな雄花」のついている野菜を避けて、ちゃんとした雄花のついた野菜だけを選んで食べたそうです。
「野生の勘」とでも言いましょうか。自然な状態のものを食べるのが当たり前なのです。
野生動物や、花粉集めをしているミツバチたちには、はっきりとわかる不自然な状況。
雄性不稔は、細胞内のミトコンドリアの変異が原因と言われているようです。ミトコンドリアといえば、細胞の中の、エネルギーの発信源。生命にとって、なくてはならない存在です。
そのミトコンドリアの変異によって作られた個体を、わざわざ選んで食べたら。人間の体内に影響は出ないのでしょうか?
おかしくなったミトコンドリアを食べた、動物のミトコンドリアは大丈夫なの?
この講演会で、野口さんが問いかけたメッセージでした。
自然の法則を遮って、わざわざ手を加えた現在の生活スタイル、食生活。
その中で生きていると、それが当たり前に思えてしまいます。でももしかすると、どこかでしわ寄せがきている可能性があるのも確かです。自分自身には、まだふりかかっていないように見えるかもしれない。けれど、どこかで。
自然のサイクルの重要性を、いま一度、見直す時期にきています。
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