東京文化会館大ホールの響き

2024年5月12日。

母と一緒に、プラシド・ドミンゴのコンサートに行ってきました。

ちょうど母の日でした。

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プラシド・ドミンゴのコンサート

今年83歳になるという、三大テノールの1人、プラシド・ドミンゴ。

歌劇やオペラは敷居が高すぎた

20年くらい前に、ドミンゴが主役を務める「サムソンとデリラ」という、聞いたこともないオペラを観に、たしかNHKホールに行ったことがありました。

その時は出演者が多く完全な総合芸術だったこともあり、上の階でも値段がバカ高かったです。1階席で観る人たちは、一体どんな人たちかというと、音大の若い女の子が大勢、晩餐会のパーティーにでも行くようなドレスにショール姿で、両親と一緒に鑑賞しに来ているかんじ。階によってドレスコードの種類が異なり、挙句の果てには、上の階だと音が聞こえない。出演者も小さすぎて、誰が誰だかわからない。ドミンゴがどれだかわからない。CDで聴いた方が満足できると思うような。同じ空間にいるのに、その雰囲気が全く感じられないという、予想外の体験をしました。

今回のコンサートは

一番安い席は1万円代という、一般庶民が手に届く金額でした。

そのため、来ていたお客さんの層は、若い子からご高齢の方まで、老若男女幅広く、車いすの方や、高校生の小団体も来ていて、客層豊かで興味深いものでした。服装もセミフォーマルから普段着まで様々。

チケットを予約するとき、一番安い5階席はすでに埋まっていて、4階の右側の席になりました。

東京文化会館の大ホール

どんなシートか

席は、直角の背もたれで、私の好みでした。

2列目以降は、カフェのバーような円柱のバーが足元に設置されていて、それに足を乗せた体勢で鑑賞します。

私は斜めの背もたれ椅子が苦手なので、とても座りやすかったです。

ただ狭いので、真ん中の席に座る人が来たとき、みんなで立ち上がって、通り道を作ってあげないといけません。

響きは

調べてみると、東京文化会館の大ホールは、一番上の5階の響きが良いと評判なのだそう。

私の地元の文化会館は、舞台に音が吸い込まれていくという不可思議な構造で、音響なしでは音が響かない造りになっていたので、そこでの不満を解消すべく、東京文化会館の大ホールの響きを味わってみたいと思いました。

この日、演奏したのは新日本フィルハーモニー交響楽団。

指揮者はマルコ・ボエーミ。いきなり仁王立ちで指揮を振り始めたのが印象的でした。

4階席から舞台を見下ろすと、立っている男性出演者の足が細く短く見えるので、可愛い姿に映ります。

オーケストラの演奏が始まると、響きの振動が伝わってきました。噂は本当だった。

音は、小さくも大きすぎることもない、ちょうどよい、品のある音でした。

両側の壁の木製オブジェ

大ホール内の両側の壁に広がる、凹凸の木製のオブジェは、残響などを吸収し、音響を調節してくれる効果があるのだそう。

東京文化会館をデザインしたのは、前川國男というモダニズムの建築家だそうで。この建物自体が芸術なのですね。

向かい側に建つ国立西洋美術館が、師匠のル・コルビュジエのデザインだそうで。それも意識して東京文化会館のデザインがされているのだそう。

洗練された良いデザインは、使い勝手も良い。

出演者は見えるか

脇側の席に座ると、斜め前の席の人の背丈が大きいと、見えないエリアが出てきます。

私の斜め前が、ちょうど大きめの男の人だったのですが。私は最後まで、コンサートマスターの第1バイオリンの姿を見ずに終わりました。彼が1人で演奏していた事実を知ったのは、コンサートが終わった後のこと。

一番後ろのパーカッションのカスタネットの様子は、よく見えました。

出演者たちの姿は見えるけれど、顔の造作や表情までは見えません。オペラグラスが必要になりますが、ほとんどの人がオペラグラスなしで鑑賞していました。

声楽の響きは

楽器の音は響くと評判だけど。声楽はどうだろうと気になっていましたが。

プラシド・ドミンゴの声、しっかりと響いてきました。甘くやさしく情熱的。

80歳を超えているのに、張り上げた声がしっかり届きます。

女性のソプラノ歌手、モニカ・コネサの声はさらに力強くしっかりと響いてきて、完璧なソプラノで大満足です。

アンコールは30分くらい延長してくれて、最後は歌声喫茶並みにべサメ・ムーチョを歌ってくれました。

モニカ・コネサ

当初予定されていたソプラノ歌手アデーラ・ザハリアが、諸事情により出演できなくなり、その代役として出演されたようで。

4階から見ると、黒のドレスを纏ったウエストと足が、つまようじのように細く、魅惑的過ぎました。

声は、古き女性を思わせるような、慎みといい意味で抑制のある声で、20代と若いので楽譜にも忠実なアカデミックな土台を大事にする感じの歌唱で。

高い音になると力を発揮し、歌唱力と美貌と度胸の三拍子揃う人でした。

当初の予定だったアデーラ・ザハリアの歌声も聞いてみたかった。

母国愛

今回は第1部が歌劇。第2部はサルスエラというスペインの抒情詩を歌いました。

プラシド・ドミンゴの出身地はスペインのマドリードなので、日本の地で、母国の伝統をたっぷりと披露したのです。

一方ソプラノ歌手のモニカ・コネサはアメリカのキューバ出身とのこと。サルサのような踊りを踊りながら歌う曲がありました。

オペラって

今回、海外の、三大テノールだったドミンゴのコンサートを鑑賞して感じたのは、オペラや歌劇の頂点に立つには、それが発祥した地であるイタリアやスペインで生まれ育つ必要があるなということ。

コンサートが終わる頃には、会場の空気がスペインの空気に染まり。ドミンゴの意図がしっかりと実ったように思いました。

郷土愛、伝統、文化を、東洋の異国の地でしっかりと伝えきったのですね。

指揮者のマルコ・ボエーミの背中を観ていても。この人は今までの間、わき目もふらず音楽の世界を生きてきたんだろうなと思うと、音楽の厳しさと奥の深さを感じます。

そんな異国の風に当たって。

感じたのはスペインの「愛」。家族愛や人間愛の、あったかい愛。

愛がなければ、第一線を歩み続けることはできないなと。どんな生き方でもそうだけれど。

その愛の大きさは、ホールから出た若い男の子に「今日で死んでもいい」と言わせてしまうほどの力があり。

コンサートが終わった後の人々に笑顔が広がっていました。

日本の小さな地域で暮らしているなかでは、決して感じられないビックな「愛」を鑑賞して。生きるって「愛」を与えることが大切だなと感じました。

文化・伝統

私たちは日本の文化を、どれだけ表現しているのか。どれだけ伝えられるのか。

正直、私は、スペインの伝統・文化を伝えられて、日本との差に圧倒されてしまいました。

スペインは過去、他国に侵略したりもしているのだけれど。歴史や文化を見ると、やはりすばらしい。

日本は、スペインの真似をしても上手くいかないだろうけれど。なら、日本の伝統・文化ってなんなのかな。

いま一度、自分の生まれた国の発端に注目する時期にきていると感じました。

おわりに

東京文化会館の大ホール、気に入りました。

久しく、舞台鑑賞や芸術鑑賞をしていなかったのですが。

最高のものに触れると、やはりなにかを学び、影響を受けるんだなと思いました。

どうせ…と思わずに、芸術に触れてみることも大切だと思いました。

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